次郎の器

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次郎作:ハニワ

「次郎の器」 田内 正宏(元石橋美術館副館長)

松尾次郎は、温和な人柄と、頑固で一徹な造形精神の調和が魅力の陶芸家である.

昭和28年(1953)佐賀大学に入学.師に恵まれ、初めに彫刻を、次いで陶芸を学んだ.

同33年からは有田の対山窯に入り、陶板や陶壁の仕事に携ってきた.

昭和41年(1966)34歳になった次郎は、鳥栖で魚蓮坊窯を創業した.築窯からの次郎は、初代の自由と、その厳しさを同時に背負いこむことになった.伝統の陶技を守りつつける名のとおった窯の門をたたき、修業を積んでの独立といった、普通の開票とは一寸わけが違った。固有の伝承的陶技の基盤は皆無に等しかったのである.だが反面、伝統にとらわれることなく、東西の陶器や古陶磁の研究をも深めることができ、次郎はことごとく、それらを身につけていった.

その初期は、唐津系の土と柚薬にとりつかれ、まるで土器にうわぐすりをかけたような素朴という言葉がよく似合った、多くの佳作をもって陶壇に登場した.以後、個展の開催や公募展への出品などを重ね、次第にその評価を高めていったのである.

はじめから、現在もそうであるが、次郎の作陶の根源は、彫刻やオフジェ、陶彫など、立体的造形美術にあり、その展開の分野の一つが、日常に使う用を目的とした陶器に定着をみたものであるといえよう.

近年の作風には、次郎のもつ人間性と美意識を無理なく、素直に表現できる心境と陶技の見事な調和が、新たな展開の期にさしかかっていることが見えてきた.

次郎の作品が存在する空間からは、西洋の美の秩序がもつ緊張感と、東洋的美感の響きが豊かな宗韻をもって交叉している.これこそ、次郎のめさす哲学であり、また次郎の器の世界なのではあるまいか.

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